大食一族 久遠の詩

俺屍リメイクをプレイします

補完SS

すすむことができるなら②

親王鎮魂墓に行く、という大筋は決まったものの、初陣の小町を危険に晒すわけにはいかない。小鉢も含め、猫が舐めたあとのようになった皿を片付けながら、イツ花に洗いを任せて、改めて全員で膝を突き合わせた。不安を押し込めようと大きな声を出すむぎの横…

すすむことができるなら①

一歩でも前に。 強い強い兄が、最期に残した言葉だった。

男の記憶②

目を覚ましても、現実と夢が混濁することが明らかに増えた。

男の記憶①

息を吐き出しながら、月録帳を閉じた。風が抜け、頬を撫でていく。障子が、かたかたと音を立てて揺れた。

男の記録

一〇二四年 二月 討伐前 当主に就任。討伐記録とは別に、月録をつけることにした。こうして状況を書き記しておくことが、この先、決断する場面で判断材料になればと思う。 過去の記録を確認。討伐先と目標を設定した。 紅蓮の祠の奥には、他のものより奉納点…

錦色の夢

予定通りだった。

名前

当主さま、しっかり、当主さま。どうしよう、もみじ、当主さまが、もし当主さまがいなくなったら、どうしよう、どうしたらいいの。 ご当主の血が途絶えたら、いや、考えるな、きっと大丈夫だ。体温はある。意識さえ戻れば。きっと、きっと。母さまたちが助け…

炎のように③

目を覚ますと、見慣れた天井があった。

炎のように②

ごうごうと、炎が音を立てて燃え盛る。

炎のように①

薙刀の柄を、握っては離し、離しては握る。

当主のままで③

雪が舞っていた。

当主のままで②

買い物のために、街へ行ってくる。気分転換も兼ねて、一人で行ってくるよ。そう言って、家を出た。

当主のままで ①

最期の最期まで飄々とした口ぶりのまま。 まるで眠るように、兄は逝った。

いつもの通り、いなくなるだけ 後

紅蓮、と言うだけある迷宮だった。

いつもの通り、いなくなるだけ

最初の症状は、食欲だった。

幕間

「本当に、すまない」 ご当主は、口を開けばそればかりだ。 気付かれないよう、ため息をひとつ。

ちゃんと進んでる

「ひたち、大丈夫か」 「うん。ごめんなさい、あたし」 土の力が弱い。体力がない。軽い修練の間に、何度もご当主に言われたことを、まざまざと実感する。もちろん、ちゃんとあたしを傷つけないように言葉は選んでくれていたけれど、それでも、二人が全くよ…

討伐前

「なァひたち。ちょっといいかィ」 討伐準備を進めていたとき、障子越しにそんな声がかかった。見れば逆光で、長兄の姿が切り取られている。相変わらず姿勢が悪く、背中は猫のように丸まっていた。それをご当主に指摘されては「仕方ねぇでしょうよ、穂先研い…

当主

「ご馳走さま」 目の前の皿を平らげて、手を合わせる。見れば、兄さんもひたちも、まだ半分ほどが皿の上に残っていた。ひとつ息を吐いて、食べ終わった皿と茶碗を重ね、残っていた茶を飲み干す。 外はきんと冷えていて、飲み干したあとの湯のみは、あっとい…

大食ちいね 大食あずま

父さま、父さま。お願い、しっかりして。お願い。 ひたち、手ェ、にぎってやんな。 兄上、もうすぐ屋敷です、もうすぐですから。 三人の声が、代わる代わる聞こえる。目を薄く開けると、見慣れた金色がそこにあった。軽い振動、足が着いていない感覚。ずいぶ…

賭した先で

自分の体は、最早自分のものではないのかもしれない。 武器を抱え込んだ鬼は、九重楼の最下層にいた。一見しただけで分かる、炎の力を宿した薙刀。ひたちがそれを見て、あっと小さく声を上げた。旭と陽織が、こちらに視線を向けた。一つ頷いて、鬼の背後に回…

賭して

大江山が封鎖されてから、初めて訪れた九重楼。予想通り、他の迷宮と同じく、敵の力は増していた。浅い階層の鬼であるのに、刀に宿る炎の力をもっても、一撃で屠ることが難しい。加えて、今まではなかった間仕切りのようなものに阻まれ、なかなか上階へ向か…

大食うるち 前編

照りつける太陽の下、ひっきりなしに鳴く蝉の声が、うわんうわんと響いている。障子を開け放した縁側から僅かに風が吹き込み、すこしだけ目を細めた。

ずっとみんなのことをまっていた

討伐隊の帰還を、今日か、それとも明日かと考えながら待っていた。一日千秋の思いを抱え、日の大半を縁側で過ごすようになって、三日が経つ。

悔しさひとつ糧にして

「あずま、ごめんね」 「ちいね姉上。オレは平気だ。それよりも、あまり自分を責めないでくれ」 「でも」 続く言葉を、体を横たえたまま、首を振って制した。しゅんと項垂れる申し訳なさそうな表情を見て、息を吐きながら目を閉じる。

鬼さんこちら あちら そちら

母上が逝ったときのことを、頻繁に思い出すようになったのは、いつからだろう。 前当主さまが逝き、兄上が逝って、気づけばもう随分経つ。戦場を駆ける我が子の姿を、こんなにも長く見られたことを、心から嬉しく思う。なのに反面、逝ってしまったみんなの顔…

前を向く 前しか向かない

甘明姉様。本当にごめんなさい。ワタシがもっと考えていれば良かった。あずま、すまない。君から母君を奪おうとしているのはワタシだ。ちいね、ごめん。君はいつだって優しい。なのに、それに応えることができなかった。

望みは絶えたか

とうとう鏡を、割っちまいやがった。 また会おうゼ、兄弟。 あたりには、なにもなくなった。 雪も、髑髏の山も、鬼も、なにも、なくなった。

気付けていれば

ワタシ達は強い。 迷宮の奥にいる大将は、もはや敵ではない。それは意を決して足を踏み入れた、この大江山にいる鬼どもも同じだ。全員で、立ち塞がる全てをなぎ倒して進む。 ワタシ達は、強い。 あの時とは違う、それは確固たる自信だった。

しら雪の ふりてつもれる山里は

1021年 10月末 決戦前夜 「ちょっとあんた、何やってんのよ」 縁側で、柱に頭をもたげて外を眺めていると、ぎょっとしたような声が突然背中に降ってきた。振り返らずとも誰のものかは明白で、思わず口元を緩める。