大食一族 久遠の詩

俺屍リメイクをプレイします

補完SS

大食一族 久遠の詩

「おまえは、一体」絞り出せたのは、ただそれだけだった。

帰還の日

まるで祈りのように、もう起きてくれるなと思った。

最終決戦④

「た、太照天っ!!」 少し上擦ったひかりの声とともに、四色の淡い光が場を満たしていく。 血腥さと肉肉しさが溢れかえったようなこの場では、何度も見たはずの色をうまく認識することができない。ちかちかと明滅するそれらと、息子が術を唱える音に身を任…

最終決戦③

右、後方、左右、左、後方、目の前。 赤毛の姿が見えないまま、こちらを嘲る声だけが響き回る。 眼球だけを動かして回りを見る。武器を手放している者はいない。びりびりとした空気、全員が当たり前に臨戦態勢で、自然と四人、背合わせになりながら気配を探…

最終決戦②

それは、ただの悪趣味な光景だった。 どろどろに溶けた壁から、文字通り鎖が生えている。尊厳を毟り取るような態勢で語られた、今まで戦ってきた「鬼」の秘密。赤毛が母、と語るその女性が誰であるかを、わたしは知っている。 下がった目尻、震える口元。そ…

最終決戦①

もはや嗅ぎ慣れてしまった血腥さのなか、不安定な足場を進んでいく。 足を進めるたびに響く、不愉快な粘質音。踏みしめているのに、前に進んでいるはずなのに、あまりに変化のない赤黒い景色。押し寄せる鬼の群れに、物理的に足元を掬われるような心地がして…

決戦前夜

『姉様が天上に昇ってすぐだ。前当主さまとの約束もある。もちろん一月でも早く悲願をと思う気持ちはあるが、新しく得た術をどう活かせるかを試しておきたい。私も、皆も。補強できる力があるなら補強したいのが本音だ。だから今月は蔵に残った薬を飲み、先…

此岸のわたし、ひがんのあなた

日増しに寒くなっていく空気の中、イツ花と二人、たくさんの話をした。

此岸のわたし④

目を開ける。 ぼんやりとした視界の中、それでもとっくに朝がきていることは理解できる。夢を見るかと思ったけれど、結局気がつけば夜が明けていた。目元に手をやれば、ほんの少しいつもより熱をもって腫れぼったい。夜通し泣いたら目が腫れるのか、と霞のか…

此岸のわたし③

場を照らす二つの火が、じりじりと音を立てている。イツ花の傍らに置かれた手燭の蝋燭が燃えていくのが、いつもより随分早い気がした。 影が揺れている。いつだったか、こうやって明かりをつけて、姉と妹と、台所でつまみ食いをしたっけ。そのときの記憶が、…

此岸のわたし②

「イツ花……」 なんとかして、目の前の人物の名前を絞り出した。 聞きたいことは山程あるのに、頭の中で言葉としてまとまらない。これが何なのか、いまどうしてここにあるのか、なぜイツ花がここにいるのか。すべてが喉の奥に張り付いてしまったかのように、…

此岸のわたし

鼻が痛むような、冷たい風が吹いている。 それでも冬ほどではなく、息が白くなることもなければ、指がかじかむこともない。去年の今はもう少し暖かかった気がするな、なんてとりとめもないことをぼんやり考えながら、柔らかい月明かりの中、ぽつんと立つ寂れ…

そこにはいけないけれど 後

悪い夢を、頻繁に見るようになった。 戦いに出ている夢。為す術もなく鬼に殺される夢。目の前で家族が倒れる夢。 悲願達成を急いた。死にたくなかった。自分も家族も、もうこれ以上死んでほしくなかった。だからと奥へ奥へ、足を進める。けれど結果はどうだ…

そこにはいけないけれど 前

「名前はひかり、職業は剣士になってもらいたい」ああ、楽紗の声はよく通るな、と思った。 目を開けるというただそれだけの行為に、やたら時間がかかる。頭の中には霧がかかっているようだったけれど、それでも胸まで掛けられた掛け布団の感覚や天井が見える…

光年先の未来④

遠のいた意識は、ほどなくして戻った。優勝賞品を手に、心配そうにこちらを覗き込む家族に、当たり前に大丈夫だよと伝える。けれど、歩けるよという言葉は途中で遮られ、思い切り眉尻を下げた息子としばらくの問答ののち、結局、おぶわれることとなった。 道…

光年先の未来③

人の目がある。人の声がする。それらには興味と好奇心と少しばかりの恐怖と、そして期待が含まれている。権力を持つものと持たないもののがまぜこぜになっていて、一人倒れるたびに悲鳴のような歓声のようなものが響き渡る。足場はしっかりとしていて、蹴り…

光年先の未来②

長く悩んだ。長く、長く悩んでいた。だから、話は長くなる、と思っていた。 けれど、楽紗が交神に赴くこと、そしてそれは彼女から持ちかけられた話であったこと、ねえさまの血を確実に継いでいきたいと思っていること。その三つが家族に受け入れられるのはあ…

光年先の未来

少し跳ねた短い髪、高い身長、がっしりとした体格。月明かりを切り取ったような、濃い影。そして、よく通る少しだけ低めの声。向こうにいるのが誰か、というのは、考えなくても分かることだった。 膝の上に乗せていた刀を下ろす。一瞬、この部屋に招き入れる…

日録 そしておしまい

六月十三日自分で書いた文字が、だんだんと追えなくなってきた。結局、わたしはなにがしたかったんだろう。 むぎは相変わらずだけど、わたしが咳き込むとずいぶん辛そうな顔をする。こういうとき、どう声をかけるべきか、いまだにわからない。謝ると、謝らな…

日録 月半ばまで

六月四日蛙の鳴き声が庭からずっと聞こえている。外は土砂降りだ。一日降っていたからか、紙が湿気て手に張り付くようで、あまり心地よくない。指はまだ動いている。握って解いてを繰り返しているが、感覚としては昨日とあまり変わらない。 討伐にでていたと…

日録、二日目と三日目

六月二日

日録、初日

月明かりが差し込んでいる。けれど、文字を書くには足りなかった。仕方なく、小さくなった蝋燭に火をつけて、これを書いている。明日は日中に書こうか。けれど、あまり書いているところを見られたくない、と思う。明日のことは、明日決めよう。まだ、それく…

6月1日、晴れた日

後ろには死神が立っていると、父は言った。

ずれる はずれる こわす つなげる

「はい!こちらがお子様の名前案です!夢様は米子様のご子孫でいらっしゃるので、こちらの名前よりお選び下さいませ!」 「わかった、ありがとうイツ花」 「それと……あまり、ご無理はなさらないで下さい。そもそも性別もお伝えできておりませんし…お子様が来…

つきる②

※グロテスクな表現があります。ご注意ください。 「討伐の刻限までもう時間がないわ。急ぎましょう。この奥に、髪がいるはず」 焦りを滲ませた夢の表情が、炎に照らされている。娘が慌てたように頷き、むぎが誰より早く足を踏み出した。炎は相変わらず踊るよ…

つきる①

懐に忍ばせた養老水が、歩くたびにたぷん、と音を立てている。 高温の蒸気が吹き上がる音、溶岩が流れ落ちて地面を焼く音、鬼たちの足音、何かが煮えるような音。家族が話している。気勢を上げる声が祠に響く。これだけ色々な音が同時に脳へと届いているのに…

もみじがあかくそまるとき

思えば、様子はおかしかったのかもしれない。 ずっと進めなかった、墓の奥。その場所で新しく武器を手に入れたというあの月も。きりえ姉上とむぎの奥義が要だったとはいえ、2本目の髪討伐という大戦果を得たあの月も。 屋敷に戻ってきた妹の顔は、ひとり、何…

ゆめがついえるとき

蛍が、飛んでいる。 明滅を繰り返す緑が、ふわりと指先に灯った。 蛍は、ひとのたましいなのよ。いつか、街で聞いた言葉を思い出す。 指先から離れていく、淡い光。 ああ、わたしは死んだのか。 ごく自然に、そう思った。

すすむことができるなら④

帰宅してすぐ、足に力が入らなくなった。 玄関先で動けなくなってしまったことがこれ以上なく情けなく、しかし涙は出ない。代わりに、胸のあたりに虚があいたような感覚が、ぼんやりと漂っていた。自分一人で動けるからと強がってみても、絶え絶えになる息を…

すすむことができるなら③

巨大な墓。 がちゃがちゃと耳障りな音を立てて立ち塞がる、迷宮の大将たちを捻じ伏せる。夢も、小町も、そして娘も、わたしに術をかけ、そしてわたしの力を使ってくれた。己の力が増す奥義は、あの日相翼院で編み出したもの。その力が、全員に渡り、そして助…