大食一族 久遠の詩

俺屍リメイクをプレイします

日録 月半ばまで

六月四日

蛙の鳴き声が庭からずっと聞こえている。外は土砂降りだ。一日降っていたからか、紙が湿気て手に張り付くようで、あまり心地よくない。指はまだ動いている。握って解いてを繰り返しているが、感覚としては昨日とあまり変わらない。
討伐にでていたときはあまり気にしなかったけれど、雨が降ると、胸が痛む。白骨城で、骨の髪に貫かれたときの傷だろうと思う。これは、顔や腕の火傷と違って、皆に見えないからわざわざ言うものでもなかった。父も同じだったのだろうか。
父と同じ場所で倒れ、父と同じように生き残った。後退さらず、前を向いて、髪と戦ってきたつもりだった。けれど、ずっと、ずっと、わたしは、そこにわたしがいなくてもそれをなすことができたのではないかと思っている。事実、九重楼は


六月五日

粥を残した。どうしても飲み込むことができなかった。ごめんなさいと言うと、イツ花は気にしないでくださいと笑ってくれた。漢方は飲んだ。苦いと思わず口をついてでてしまった。何度も口にしているけれど、漢方の苦さは、慣れることはなかったなと思う。むぎが、なんとか苦くなくして!とイツ花を呼ぶものだから、イツ花も困っていた。二人に見守られながら何とか飲み下した。
一昨日、昨日は変わらずに動いた指が、今日になって動かない。天気のせいもあるのかもしれませんね、とイツ花は言っていた。昨日よりはましだけれど、今日も一日降ったり止んだりだった。
書きたいことが頭の中で渦を作っているようで、どうにも気持ちが落ち着かない。昨日は、楽紗がきたあと、むぎと小町が行った九重楼のことを考えて、どうにもならなくて筆をおいてしまった。今日はと思ったけれど、自分の気持ちを書くことが、どうにも難しい。誰に見られるわけでないというのに。もうすこし長く、しっかりと整理を付けたいのに、書き始めた日に比べて、明らかに体が重くなっている。わたしの命は、もつのだろうか。

六月八日

一昨日も、昨日も、雨が降っている気がしたけれど、実際は晴れていたようだった。洗濯物が乾かないねと伝えたときの、むぎの、なんともいえない顔。申し訳ない気持ちばかりが強まる。何かを言おうとしてくれているけれど、それを汲み取ってあげられないのもまた。
今日は粥を全て食べた。むぎは喜んでくれたし、イツ花はほっとしていたようだった。同じことを何度も書くけれど、あと二十日あまり、わたしは生きていられるのだろうか。最期に、皆の顔が見たい。みんな、楽紗、無事でいてください。

六月

今日は、一日眠っていた。こういう日が増えていくことは分かっていた。何度も九重楼のゆめを見る。あのとき楽紗と話したこと、家族が進んでいけるように、後ろには死神が立っているのだから。そういったことは覚えているのに、わたしはずっと後ろを向いているのかもしれない。父がこちらを見てくれないのは、当たり前だったのだろか。おとうさんと、わたしから呼びもしなかったのに。

六月十二日

お腹がすいていない。むぎと小町が、意気揚々と帰ってきたときのことを、また夢に見た。
髪を打ち倒した。先に進めた。驚きと、安堵。無事で帰ってきてくれたことの喜び。あのときは、本当にその気持ちが全てだったのに。日を経るごとに、自分の中に片付け切れない感情が生まれては、胃の縁にへばりついたようになっている。
わたしがあの場にいたら、むぎも小町も、すすむことを選んでくれただろうか。いや、きっと一緒に進んでくれたはずだ、その前の月は三人で髪を討伐したのだから、と思う気持ちと、わたしを連れて行くことに利益がないから、わたしのいない月に奥まで進んだのではという気持ちがある。ずっとあった。ずっとあるのだから、気持ちを伝えればいいのに。けれどわたしの思い込みのせいで、妹たちを傷つけたくない。いやこれは、自分が傷つきたくないだけなのではないだろうか。結局、いつも、同じことが堂々巡りだ。
明日は何か食べなければ、むぎとイツ花を心配させてしまう。