大食一族 久遠の詩

俺屍リメイクをプレイします

日録、二日目と三日目

六月二日


結局夜に、これを書いている。
日中のむぎは甲斐甲斐しく、わたしの身の回りのことをやりたがった。そんなむぎの目を盗んでこれを書くのは不可能だったし、わたしを心配してくれているむぎから隠れて、というのはどうにも気が咎めた。
むぎは折に触れて、怠さが急に出たらどうするの、とか、傷に障ったらだめだから、と、背を支えるようにそばにいてくれている。一緒に風呂へといわれたときは驚いた。さすがに断った。
結局、昨日とほぼ同じ問答の果てに、昨日と同じように寝息が聞こえている。さっき、ぴぃとまた音がした。
夕刻、食事を摂りながら、討伐隊はいまどのあたりだろうか、と、むぎに聞いた。即座、ねえさまはゆっくり寝るのが仕事!という返答。予想していたことなのに、また、胃が痛んだ。むぎがわたしのことを気遣って、そう言ってくれているのは、火を見るよりも明らかなのに、みっともなく家族の、討伐隊の役に立てないことを悔いてしまう。だめな姉だ。心底、申し訳なく思う。
昨日に比べて、指があまりうまく動いていない気がする。
食事は摂れた。大きな口をあけて煮浸しを食べるむぎを見ていると、自分も食べなくてはという心地になる。もうずっと粥をすすっている気がする。ただ、さすがに固形の物を食べられる気はしなかった。体を起こしていること自体は平気だが、それもじき出来なくなるのだろう。
今日、イツ花を手伝うむぎの顔を見て、きりえ姉さんのことを思い出していた。
髪の色は違うけれど、ほんとうに良く似た親子。同じ職業だということもあるだろう。討伐中の彼女は、生き写しのようだとよく思っていたけれど、戦場でなくても、はっきりと良く似ているのだなと思った。
姉さんが墓での討伐で、むぎとともに決めた奥義は、本当に素晴らしくて、強くて、美しくて、今もはっきりと思い出せる。親王を討ち倒したとき。髪の討伐。
あんな風に、わたしも家族の、役に立ちたかった。
墓で手に入れた槍。土の力を宿した槍。父を亡くしたあと、みんながわたしにと望んでくれた槍。あれに触れたときの気持ちを、今思い出している。強かったという祖父。同じような働きを望まれ、槍使いになったのだ、と思っている。本当のところは分からないけれど。
それでも、あのとき強い武器を手に入れたのだからきっとできるはず、という気持ちと、奥義ひとつ編み出せないわたしが、これをうまく扱えるのかという不安が一気に押し寄せてきて、。事実、武器は強かったのに、わたしは二度も戦場で意識を失ってしまった。
結局、わたしは、皆が望むように槍を使えていただろうか。
父とは違い、妹たちは生きている。明日にでも、家にいるむぎに聞けば、答えを返してくれるはずだ。きっと。そう。わたしの望む答えを。彼女は優しいから。
ああ。やっぱり、おなじことを延々、考えてしまう。
今日はもう、寝てしまおう。


六月三日
今朝、むぎに夜起きて何をしているのかと問われた。本を読んでいる、とごまかしはしたけれど、聡いむぎのこと、何か思わないはずはない。けれどきっと、なにかこそこそしている、というよりは、ただただわたしの身を案じてのことだろうなと思う。
日中も、起きていて平気なのかと何度も問われた。優しい子だ。少し、心配性が過ぎる気はするけれど、小町や、文太が討伐に行っている分、むぎも不安なのかもしれない、と思う。小町とはずっと一緒だったし、出来れば討伐に行きたかっただろうに。
日録を書いている、と答えれば内容を気にさせてしまうだろう。内容を根掘り葉掘り聞かれることはないかもしれないけれど、不安にさせるようなことは、少ない方が良い。
あまり長く明かりをともしていると、また気にさせてしまうだろう。今日は休もうと思う。明日、指が動かなくなっていないことを祈る。