大食一族 久遠の詩

俺屍リメイクをプレイします

日録 そしておしまい

六月十三日

自分で書いた文字が、だんだんと追えなくなってきた。結局、わたしはなにがしたかったんだろう。
むぎは相変わらずだけど、わたしが咳き込むとずいぶん辛そうな顔をする。こういうとき、どう声をかけるべきか、いまだにわからない。謝ると、謝らないでといわれてしまう。申し訳ない、以外の気持ちが見当たらなくて、でもそんな顔をして欲しくないから今日は頭をなでてあげた。小町が帰ってきたら自慢する、と嬉しそうにしていた。良かった。このところ、むぎが寝るのが早い。わたしの身の回りのことをずっとしてくれている。疲れていなければいいのだけど。

六月十五日

順調にいけば、討伐隊が戻るまであと少し。皆無事だろうか。
気がつけば夕方だった。夕焼けが綺麗だった。粥がさめてしまうのが申し訳ない。むぎはちゃんと食べているだろうか。討伐隊のみんなは、ちゃんと食べているだろうか。術をひとつ手に入れた次の月、小町はたくさんのものを持って帰ってきた。きっと今月

六月

咳が苦しい。むぎが、悲しそうにしていた。頭をなでてやっても、わらってくれない。
朝と夜がわからなくなってきて、わたしは、うわごとを言っていたようだ。何を言っていたか聞いたら、教えてくれなかった



イツ花に、そろそろだと思うこと、もういちど、わたしが逝ったあと、間違いなく誰の目にも触れないように焼いてくれるように頼んだ。あなたもできれば見ないで欲しいと伝えたけれど、悲しい顔をさせてしまった。ほんとうにいいんですかと聞かれたが、頷くことしかできなかった。
むぎ
小町



何か、できたことがあると思う。それを見つけようとしたけど、やっぱりだめだった。
何ものこせなかった。楽紗が聞いたら、悲しむだろう。



苦しいな
ごめんなさい



わたしの命がもしも、皆が帰ってくるまで、もったら。
いちどだけ、きいてみよう。
そうしたら、どんなこたえでも、本当のことだと思おう。
それがきっと、最期だ


******


落ちていく。呼吸するたびに、落ちていく。目蓋が重く、体に通った管がどんどん冷えていくような感覚がしていた。夏なのに、暑いのに、ずいぶんと寒い。布団が重く、どうにも冷たい。体を起こすことがもうできない。分かっていたことだ。文机のなかに仕舞い込んだ、日録のことが頭を過ぎる。そういえば、いつから食べていないだろう。喉にとろりと何かが流れ込んだ気がする。ああ、イツ花に、早めに頼んでおいてよかったな、彼女ならきっと、約束を守ってくれる。思考はもうぶつぎりで、書いたことが頭に浮かんで消え、浮かんで消えてを繰り返している。家族が帰ってきたのかどうか、分からない。光だけが網膜に焼き付いて、視界は白く染まっていた。
いつからそうしていたか、もうわからなくなった頃。不意に、黒く切り取られた影が、何個か並んでいるのが見えた。帰ってきてくれた、と思った。そうだと信じたかった。ちゃんと話せるかわからない。こんなことなら、指が動くうちに、口が動くうちに、きちんと考えられるうちに、話しておけばよかったと、ひどく勝手なことを思った。

「ねえ、わたし…何か、残せたのかな」

自分の声も、うまく聞こえない。そこに、むぎや小町が本当にいるのかわからない。
けれど、だれかの手がわたしを掴んで、ぐっとちからを込めてくれた。

わかったことは、それだけだった。