大食一族 久遠の詩

俺屍リメイクをプレイします

すすむことができるなら③

巨大な墓。
がちゃがちゃと耳障りな音を立てて立ち塞がる、迷宮の大将たちを捻じ伏せる。夢も、小町も、そして娘も、わたしに術をかけ、そしてわたしの力を使ってくれた。己の力が増す奥義は、あの日相翼院で編み出したもの。その力が、全員に渡り、そして助けになっていると思うと、胸に、言いようのない大きな安堵が広がる。昨日の、食事を取る前に感じた目眩が襲ってくることもなく、進む足取りはとても、軽かった。
最奥近く。此処に巣食う一際巨大な鬼の大将は、かつて人であり、家族に裏切られたという。そんな話を、何度か目にしたあの赤毛が言っていた。まるきり信用ならない軽い言葉。あの、逆撫でるような声音。虫酸が走るという言葉を聞いて、しかしわたしたちが歩みを止めることはない。
手入れなどされていないはずなのに、やたら目の整った石畳。なのに、おぞましいほど土埃が積んだ、細かな壁の装飾。嫌でも目に入るのは、場を圧迫するような太い柱。箱に収められた金銭は、この場で眠るかつての人へと供えられたものだろうか。いける、やれる、小さく声を交わし合い、迷宮の奥へ奥へと進んでいく。術の使えぬ空間、闊歩するのは見慣れた鬼。一層暗いその場所で、夢が俯いていたのが見えたけれど、結局、声はかけないままだった。


地鳴り。
何が起きているのかを把握しようとしても、ぐらつく地面に足を取られ、体幹がまるで安定しない。細かく砕けた石畳の破片が、容赦なくばらばらと襲いかかってくる。回避行動が取れないまま、間をおかずにどん、と劈くような地鳴りが再び響き、堪えきれず後方へ体が傾いだ。尾骨を強か打ち付け、背に突き抜けるような痛みが走る。けれど、構っていられない。
立て直そうと膝をつき、眼だけぐるりと動かして家族を見渡せば、皆が同じ状態だった。倒れてはいるが、致命傷ではない、おそらく。皆、武器を手放してはおらず、むぎが拳を握りこむのが見えた。しかし直後、崇良親王はその巨体を揺らし、ぐわりと片腕をあげ、ああだめだ、あれを振り下ろされては。
片足に力を込めて、つま先で地面を掴む。ぁああああああああ、と自分の口から迸ったのは、何だったのだろう。一足跳び。文字通り懐に飛び込み、握り込んだ拳をめいいっぱい叩き込んだ。
軋むような、耳障りな音共に、親王の腕が止まった。息を漏らしている暇はない。即座に体を捻り、もう一度地面を蹴り上げて家族の前へ戻る。直後、朗々とした小町の声が響き、体の痛みと、筋状に入っていた腕の傷が、光の粒とともにすうっと消えていった。

頭だけを、後方へ傾けて振り返る。
むぎと、しっかりと目を合わせた。
頷く姿が見える。
今だ、という好機を、二人で捉えた。
力を溜め、飛び上がる。蹴り込んだその場所を違えることなく、弧を描きながら飛び込んできた娘の姿が、はっきりと見えた。

倒れ臥す親王を見ながら、娘と目が合う。
どーよ、と笑うその表情に、同じ言葉を返す。
ゆっくりと笑い合い、そのまま、ぎゅっと娘の体を抱きしめる。
彼女の口癖は、思ったよりも、ずっと静かな言葉だった。

親王の体は霧散することなく、どろりと溶けるように、印の中へ消えていく。
ああ、討伐が終わった。そう思ったとき、小町がわあ、と声を上げた。
当主で、初陣で、隊長で、迷宮の奥。不安だったのだろう、目が少し潤んでいる。
同じくして、がらり、と、槍がその場に転がったのが見えた。見覚えのない、針のような穂先をした槍だ。夢がそれを拾い上げ、眉根に皺を寄せて、ゆっくりと抱えこんだ。
「ああ、夢ねえさまの武器だ!」
むぎがそう笑いかけ、夢の表情がふっと緩む。
みんなで手を繋いで帰ろう、前の前の当主さまの、記録に書いてあったのよ、と笑う、小町の声が涼やかに響く。顔を見合わせて笑う二人の表情が、なんだか遠い。
呼びかけられて、慌てて足を進めた。

ずぐり、と胸を刺すような痛みを、覚えたことを。
結局、言い出すことはできなかった。