大食一族 久遠の詩

俺屍リメイクをプレイします

当主のままで ①

最期の最期まで飄々とした口ぶりのまま。

まるで眠るように、兄は逝った。

 

弔いは、最早慣れたものだった。母や、あずま兄上、そして偉大な前当主様を見送った時のように、つつがなく葬儀を終え、一族の皆が眠る墓の前で手を合わせる。線香の煙が薄くたなびき、ゆっくりと空に登っていった。

薄い膜が張ったような曇天と、鼻を刺す寒さ。芋づる式に、かつての記憶が蘇ってくる。

指輪を継いだあと、初めての仕事は前当主様の葬儀だった。葬儀の流れや頼むべき寺、人、墓をどうするかなどは、母が事細かく教えてくれた。戸惑いと重責のなか、指示に従うのでいっぱいいっぱいだったあの日。悲しみにくれながら、それでも住職さんや家族の前で気丈に話す母の声を聞きながら、ああ次はこの人を見送らなければならないのかと、ぼんやり考えたことを思い出す。

そう、そして、程なくしてそれは現実になったのだ。母とほぼ同時にあずま兄上が身罷り、教えてもらった通りにことを運んだ。墓に手を合わせ、帰ろう、と皆に声をかけたけれど、ひたちは声が枯れるまで泣き、喚き、顔をぐちゃぐちゃにして、墓の前からなかなか立とうとしなかった。ほら、今日は泣いて、明日は笑って飯を食おう、そう伝えたのは、そういえばちょうど、一年前のことだ。

湿った土の匂いと、埃のように舞う白い雪。寒空の下で、祭囃子が遠くで響いていたこと。路地にまで香る、餡子を炊く香り。漏れ聞こえる喧騒のひとつひとつまで、はっきりと思い出せる。

 

ああ、それなのに。

あのとき、二カ月上の兄がどんな顔をしていたのか。

それだけが、どうしても思い出せなかった。

 

***

 

「ご当主…?」

覗き込むように、ひたちがこちらを見ている。

白米が盛られた自分の椀は、すっかり冷たくなっていた。皆よりも早く食べ終わるのが常なのに、食事が始まってから、箸を持っては置き、を繰り返している。肉が煮炊きされた匂い、常なら食欲をそそるはずのそれらが、どうにも胃の腑を圧迫するような感覚。胃の中に物は入っていないはずなのに、まるで堰き止められているように、食べ物が喉を通ってくれない。ひたちだけではなく、気づけば家族の視線が集まっている。なぜかばつが悪くなって、目をそらして立ち上がる。

「少し、疲れたみたいだ。悪い、これは雑炊にでもして食べてくれ。箸はつけていないから」

「父さま、顔色が」

「大丈夫だよ」

娘の言葉を遮るように声を掛けて立ち上がる。ふと、自分の姿をまるで遠くから見ているような、不思議な感覚に襲われた。そしてそれが、つい二カ月前のあの日と、はっきりと重なる。

ああ。

やはり自分は、何も見えていなかったのだ、と。

そう、思った。

 

 

②に続く