大食一族 久遠の詩

俺屍リメイクをプレイします

当主のままで②

買い物のために、街へ行ってくる。気分転換も兼ねて、一人で行ってくるよ。そう言って、家を出た。

心配する家族の視線、おそらく誰一人として納得はしていないだろう。安心させるための嘘一つ、上手く言えないことへの、申し訳なさと罪悪感が、胸の中で綯交ぜになる。けれど一方で、おおよそ二ヶ月後に何があるのか、きっと家族は分かっているのだろうなと、ぼんやりと思った。

街の方へと足を進める。漢方薬を買い、そのまま少しだけ街を散策した。雪こそ降っていないけれど風はずいぶん冷たく、体温はどんどん奪われていく。上っ張りを掴んだとき、就寝前に飲むように、と言われた漢方薬が、かさりと胸元で音を立てた。少し前、兄もこれを飲んで討伐に向かったのだろう。どんな思いだったのか、結局推し量ることはできなかった。

自分はどうなのだろう。討伐記録にあるように、最後まで家族とともに戦いたい。自分は当主で、最年長なのだから。反面、衰えた体で家族の足を引っ張りたくない。さっきから、相反することを考えてばかりだ。

情けない。

息を吐けば、白く滲んだ息は、風に煽られてあっという間に消えてしまった。

 

***

 

討伐先を考え、討伐に行くのは誰かを考え、何を持ち込むか、何を狙うか、何が目的かを考え、記録を見て、誰に何が足りていないのかを見て、蔵を見て、携帯袋を見て、今月の討伐先を皆に伝えた。

寝る前に飲んだ漢方薬はずいぶんと効いていて、気力も体力も十二分にあった。全くいつもと同じように体は動き、ひとつの問題もなく準備が進んでいく。

今月まで訓練期間のもみじは、ひたちに連れられて早速庭先へ向かっていった。きりえは錦とこちらを交互に見ていたけれど、錦は、見られていることを意に介していないのか、淡々と大筒の確認をしていた。きっとこの子なら、自分がいなくなった後も、すぐに慌てる癖のある娘を、うまく御してくれるだろう。

行き先は相翼院。母の代で成せなかったことを、ひとつでも進め、後の世代が迷宮の最奥まで辿り着けるように。そのための、礎になれるように。自分に出来ることを、見誤らずに。頭の中で、前当主様の声が蘇ってきた。君たちにも、大事な役割があるよ。なんだと思う?

「生き残ること」

「……当主様、何か?」

口の中で小さく呟いた言葉に、錦が顔を上げた。金の眼差しに、いいや、と首を振る。

「俺たちが出来る、唯一のことを…思い出しただけだよ。さぁ、そろそろ行こうか」

 

 

③に続く