大食一族 久遠の詩

俺屍リメイクをプレイします

姉さん 後編

上へ、上へ、一歩でも上へ。

鬼気迫る、とはまさにこのことだろうか。骨で作られた回廊をぐんぐんと上がっていく。上へ、上へ。息はきれ、足はもつれているのに、それでも歩みを止めようとしない。

 

手に入れた武器は、予想通り素晴らしい威力だった。炎の力は殊更、この迷宮の敵によく効いたようで、大きな鬼の、文字通りその足を崩す力だった。武器の力だけでなく、この二ヶ月、みっちり訓練された、迷いのない太刀筋。構えは、どこか父さんのそれと似ていた。それでも。

大きな鬼を倒したときの、怯えたような表情。母が息をきらすたび、たじろぐ足元。これが、姉さんの言っていた、弱い部分なのだろうか。そして、それを超えさせようとして、姉さんはいま、歩みを止められないのだろうか。三股にわかれた道の中央を迷わず進んだとき、果たしてほかの道が見えていたのか。

「姉さん!その先は崖だ!!!!」

叫んでようやく、歩みを止める。息は纏まらず、薙刀の柄を杖代わりにしてようやく立っていた。直後、ぐらりと傾ぐからだを、両脇から薯芋花と玄が支える。きっと、ここが限界だ。

「帰ろう、姉さん」

かくん、と首が倒れる。頷いただけ、と自分に言い聞かせながら、姉さんの体をおぶる。薯芋花、先行は任せた。玄、しんがりは頼むぞ。言いながら、目からは涙が溢れそうで。

「帰ろう」

最後の討伐。米子姉さんの残した最大の戦果は、きっと玄の心の中にある。

細められた眦の強さに、たしかに姉さんの面影を見ながら、家路を急いだ。

 

***

 

「縁側がいいな。あと、握り飯をみっつ、用意してほしいの」

家にたどり着いたとき、かすれる声でそう言われた。ああ、いよいよかと思いながら、黙ってそれに従った。握り飯を握るには手が汚れすぎていて、イツ花さんを呼んでお願いした。薯芋花が後に続き、玄が縁側に座布団を敷く。ゆっくりと縁側に座らせて、柱に体をもたげた。横になっていた方が、と言っても、座っていた方がいい、と譲らなかった。

ほどなくして握り飯を持った薯芋花がやってきた。特大の握り飯が三つ、皿に乗せられている。手元にそっと置いて、ねえさま、と呼ぶ。声は震えていて、姉さんはそれに応えるように、ゆっくりと薯芋花を抱きしめた。

「玄、この指輪、あんたに任せるね」

かすれてはいたけれど、しっかりした口振りだった。おそらく、大食米子の、さいごの矜持だ。父さんの言いつけを守り、食べて、家を引っ張ってきた、強い強い姉さんの。

薯芋花から離れて、指輪を引き抜く。一つ頷いて、玄はそれを受け取った。

「父上が言ったことをわすれ、ないで。ちゃんとたべて、ごはん、たべてね。そしたら、力がわいてくるの」

姉さんが目を閉じる。ああ。待ってくれ、と思う。

「わたしが逝ったら、これを三人で食べるの。食べられなかったら、雑炊にして、ちゃんと」

「わかった、わかったよ」

玄が頷いた。安心したように笑って、姉さんはゆっくりと、外を見遣る。

 

「逝く道中で、朱点を呪っとくから、会心の一撃が出たら、思い出してね」

 

わかった、必ず。

全員が頷いたのが、きっと見えたのだろう。

最後にもう一度笑って、姉さんは逝った。

 

蛍の舞う、夏の夜だった。