大食一族 久遠の詩

俺屍リメイクをプレイします

此岸のわたし④

目を開ける。
ぼんやりとした視界の中、それでもとっくに朝がきていることは理解できる。夢を見るかと思ったけれど、結局気がつけば夜が明けていた。目元に手をやれば、ほんの少しいつもより熱をもって腫れぼったい。夜通し泣いたら目が腫れるのか、と霞のかかった頭の中で、そんなことを思った。
朝食の時間だろう、居間の方に行かなければ。わかっているけれど、なんだか気力が沸いてこない。
目を閉じれば、黒く煤けた燃え殻がすぐに浮かぶ。燃やしたことに後悔はない。けれど、やはりじくじくと胸は傷んでいる。
一つ、息を吸って吐く。
振り絞るように体を起こして、できるだけ何も考えないようにしながら、居間の方へ足を向けた。

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此岸のわたし③

場を照らす二つの火が、じりじりと音を立てている。イツ花の傍らに置かれた手燭の蝋燭が燃えていくのが、いつもより随分早い気がした。
影が揺れている。いつだったか、こうやって明かりをつけて、姉と妹と、台所でつまみ食いをしたっけ。そのときの記憶が、やたら鮮明に蘇る。

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此岸のわたし②

「イツ花……」
なんとかして、目の前の人物の名前を絞り出した。
聞きたいことは山程あるのに、頭の中で言葉としてまとまらない。これが何なのか、いまどうしてここにあるのか、なぜイツ花がここにいるのか。すべてが喉の奥に張り付いてしまったかのように、言葉として形にならない。やたら冷えた風だけが、開きっぱなしの勝手口から忍び込んで、じじ、と蝋燭の芯が燃えている音がしている。暗がりの中、わずかに見えるイツ花の表情は変わらない。困惑、後悔、驚き、そのほか色々な感情が、静寂とともに、ただ台所にぼとりと落ちていた。

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