大食一族 久遠の詩

俺屍リメイクをプレイします

出撃前に

「初めての出陣に際し、セン越ながら漢様にご助言申し上げます」

イツ花は柔らかい雰囲気は崩さず、畏まった口調で告げる。

「戦の駆け引きに慣れるまでは、薬をケチらず。体力の回復は余裕を持って、早めにお願いします」

携帯袋に入れた丸薬を、布越しに触った。

これが、我々の命を握っているのだ。

口に含めば、ひととき傷の痛みを忘れられる。

使い方や効能を知っていても、そのとき自分が躊躇なく行動できるかは分からなかった。

「思わぬ強敵に 出会ってしまったときは、最後の切り札 「当主ノ指輪」を お使いください」

イツ花の声を聞きながら、目を閉じた。

丸薬と指輪が触れ、こつん、とした感覚が掌に伝わる。

父を偲ぶものは、この指輪だけ。

おまもりください、と心の中で呟く。

「迷宮の中で にっちもさっちもいかなくなったときは、帰還してください」

にっちもさっちも。

それは自分の命だけではない。

 

不意に、戦装束がくい、っと下方に引かれた。

目をやれば、米子の白い指が装束を引いているのが見える。

かすかに、震えていた。

「米子、大丈夫だ。父上が守ってくださる」

言って、自分の声も震えていることに気づく。

自分が守ってやる、とは、言えなかった。

おまもりください、ともう一度、呟く。

米子は震えた指をぐっと握り、持ち慣れない様子で長柄物を構えた。

「だいじょうぶです、ちちうえ」

震える声を押し留めながら、双眸は涙で潤むようだ。

抜けるような白い肌に明るい空色の髪。

自分と同じ、赤い眼差し。

あまり自分に似ていない、快活な顔立ちの少女は。

間違いなく、娘なのだ。

 

「戻ったら」

声を震わすものか、と、肚にちからを込めた。

「たくさん食おうな。縁側で、茶でもすすりながら」

米子の顔は、曇ったまま。

それでも春の日差しは、場違いに暖かかった。