大食一族 久遠の詩

俺屍リメイクをプレイします

疑問と結論と当主と一族

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ワタシには、自信があった。

自分一人では儘ならぬとも、側には頼れる家族がいる。事実、初めて当主として、隊長として三人で出た討伐で、金になる大槌を四本、術が二本に迷宮奥の大将討伐まで成すことができた。上々といえる戦果だろう。

苦がまったくなかったと言えば嘘になるし、自分が振るう武器は手に入れることが出来なかったけれど、それでも、自信にはなった。

「うる、やったなぁ!」

相翼院討伐後、屋敷までの帰り道で、兄上はそう言って笑ってくれた。その横で、なぜか悔しそうに顔を歪める妹分。舌打ちの音を聞きながら、この親子は本当によく似ているなと思ったものだった。

芋づる式に、ワタシに当主を任せてくれた、父上の表情を思い出す。

口酸っぱく、いいか絶対に無理はするな、と言われたこと。

口酸っぱく、戦果がないときも道を見つけるのが当主としての仕事だ、と言われたこと。

初陣の妹分をつれて、兄上が迷宮奥の大将に挑んで勝った、そして帰ってきたときの剣幕。

大江山に挑み、そして帰ることを選択した父上の姿。

お強い父上であれば、あそこで朱点の根城に向かうことも出来たはずだ、と。

胸の奥で、ずっと、ずっと、考えていた。

ワタシには、自信が、あった。

 

**

 

もうひとつ階段を上がれば、迷宮の大将がいる。ごうごうとした風の音はここまで響いていた。あいつらがいるのは、間違いない。

あずまが、めきめきと力をつけているのは明らかだ。どういう原理なのかはわからないけれど、刀も輝きを増している。ただ、目ぼしい武器も、術の巻物も手に入らず、ただただ目の前で掠め取られていくだけだった。悔しさに、唇を噛む。自信など、そんなちっぽけなものは砕けてしまいそうだった。

「うるちゃん…?」

階段を睨みつけるワタシに、姉上の心配そうな声が降ってくる。気づけば、もう刻限が迫っていた。

「大丈夫?」

「あ、ああ、大丈夫だとも!」

大丈夫と言ってみても、姉上の表情は晴れない。

常に、父を後ろで支えてくれた姉上。それが、いま当主となったワタシを支えてくれているのか、と考えると、どうしてそこまでと思わざるを得なかった。討伐中の槍の閃き。あの力があれば、鬼の大将など怖くはない。ワタシよりも、ずっとお強いのに。それは、刀削兄上もだ。

「ねえ、ちょっとどーすんの。今回、戦果ないわよ」

ちいねの声は、明らかに焦っていた。その言葉の奥に、少しの心配が混ざっているのが彼女らしい。言及すれば舌打ちで返されるだろうけれど、その心配は、きっと「戦果がないまま帰ること」ではなく「それを気に病むかもしれない当主」に向けられている。彼女は、優しいから。

ワタシを囲むようにして立つ、三人の顔をぐるりと見た。

あずまは、階段の奥を見ている。

ちいねは、後ろを気にしている。

姉上は、ワタシを見ていた。

挑むべきではない、と思った。

「今月の討伐はここまでにして、帰ろう」

姉上は静かに頷き、ちいねが一瞬、階段の奥を見た気がした。明らかに、ええ、と表情を変えたのはあずまだった。

「ご当主!僕を心配してくれているのか!?大丈夫だ、ずいぶん力もついてきたし、大きな敵を倒してこそ」

「あずま」

迅る息子を抑えるような、優しい姉上の声。いつか、こんな風に優しく窘められるようになりたい。そう思いながら、あずまの方へ向き直る。

「君が力をつけているのは分かっているよ。けれど、ワタシは」

一つ、息を吐いた。胸の奥で、自分の出した結論と、父上が挑まなかった疑問が、一つの像を結んだ。

「君たちを、決して死なせたくはないんだよ」

 

***

 

「へぇ、それで、迷宮の大将には挑まずに帰ってきたんだな」

帰ってきたワタシたちを出迎えたのは、温かな湯とたくさんの飯だった。討伐から無事に戻った実感が胸に灯って、じわりと体を満たす。ワタシは用意された飯をがつがつと口に運びながら、兄上に討伐の土産話をしていた。

「あずまは初陣だし、ちいねほど術に長けているわけではないから。他の迷宮ならともかく、あそこの大将はさすがに」

何を手に入れたわけでもない討伐。それでも、兄上は笑顔で耳を傾けてくれる。あずまはそれを聞いて、複雑な表情をしていた。大丈夫、君が弱いわけじゃないよ、と思う。

「形に残る戦果を手に入れることは出来なかったけれど、皆無事だ。刀も育ってる。それ以上、望むことはないと思って、帰ってきた」

言いながら、米を腹におさめる。見れば、兄上の茶碗にはまだ、半分ほど米が残っていた。いつもは、自分より早く食べ終わるはずの兄上の様子に、言いようのない違和感を覚えた。

「兄上、食わないのか?」

「ん?あぁ、俺はお前たちが帰って来る前に、軽く済ませたから、腹が一杯なんだよ。討伐にも出てないし。なんだ、おかわりか?」

「あ、いや…」

「どら、ちょっとイツ花に米櫃を」

そう言って立ち上がった兄上の体が、

 

ぐらりと、傾いだ。

 

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